ファインダーの向こう
 ふたりの沈黙を破るように沙樹の携帯が鳴った。


「ごめんね」


 沙樹は新垣に断って携帯の画面を見ると、表示された名前に手が止まった。


「倉野さん、どうしたんですか?」


「う、ううん。なんでもない」


 怪訝な顔をしている新垣に作り笑いで誤魔化すと、沙樹は通話を押した。


「はい」


『あ、沙樹? ごめんね、いきなり電話して』


「……ルミ」


 電話越しに少し疲れきったようなルミの声が聞こえた。


「大丈夫だよ、どうしたの?」


『う、うん……あのね』


 お互いに先日の喧嘩を意識しているのか、ぎこちない空気が漂って気まずい。


『沙樹に謝らなきゃって思って……この前、水ぶっかけちゃったこと』


 あの夜、今まで一度も見たことがなかったルミの憤った様子に、沙樹は身を震える思いをしたが、今聞こえるルミの声はしおらしく今にも消え入りそうだった。


「別にそんな気にすることないよ、大丈夫だから」


『今からR&Wに来て』


「え……?」


『そこで一緒に飲まない? お詫びも兼ねてさ! ね?』


 まるで作ったかのようなルミの明るい声に、沙樹の警鐘が鳴り響く。


(これはきっと何かの罠……でも)


 沙樹は携帯を握りしめながら言った。


「うん、わかった」


『ほんと? じゃあ、待ってるね!』


 沙樹は通話が切れてもしばらく耳に携帯をあてがって一点を見つめていた。


(もしかしたら、ルミがなにを考えてるのか聞き出す最後のチャンスかもしれない……)


「新垣君、ごめん! 急用ができた」


「え?」


「うん、じゃあまたね!」


「ち、ちょっと!」


 慌ただしくバッグを引き寄せると、沙樹は足早にカフェテリアを後にした―――。
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