ファインダーの向こう

Chapter3

 その頃「peep」編集部では珍しく逢坂が顔を出していた。


「逢坂ちゃ~ん、いらっしゃい! と言っても、ここは君の仕事場でもあるんだから、それ忘れないでね」


 逢坂は契約カメラマンであって、デスクワークはよほどのことがない限りしない。ネタが撮れた時に寿出版に足を運ぶくらいだ。


「ガセネタだったら俺、即帰りますから」


「そんなわけないでしょ! まぁ、急遽手に入れた情報だからね……でも、僕の情報網を舐めてもらっちゃ困るよ」


 波多野の情報は、どの情報誌よりも信憑性がある。しかし、その情報源はいまだに明かされていない。


「R&Wにガサ入れがはいるのは、前々からサツが水面下で動いてたからな……」


「そう! その現場に潜り込んでバシバシーっとネタ撮ってきて欲しいんだよねぇ、これかなり美味しいと思わない? でも、里浦に逃げられちゃったのは残念だけどね」


 今夜未明にR&Wの家宅捜査が入るという情報を掴んできた波多野は、まるでクリスマスか誕生日前の子供のようにソワソワしていた。


「でも、R&Wって元々里浦の経営してたクラブでしょ? 店の名義を変更してたなんて盲点だったな~」


「どうせトンズラするためだろ。まだ芸能界で食っていきたかったから目をつけられる前に、店の名義を誰かさんに擦りつけて自分は逃げるって算段だ」


 逢坂は波多野から受け取った缶コーヒーのプルタブを開けると、どかりと椅子に腰を下ろした。


「誰かさんって?」


「知るか」


「ぶー、面白くない」


 波多野は目を輝かせて逢坂の答えを待ったが、そっけない返事が返ってきて口を尖らせた。


 その時―――。
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