ファインダーの向こう
「逢坂さん!」


 背後から呼び止められて逢坂が肩ごしに振り向くと、新垣が何か言いた気な様子で走り寄ってきた。


「どこ行くんですか?」


「お前に関係ないだろ」


 なんの抑揚もない口調に、ゾクリとしたものを感じて新垣は思わず息を呑んだ。


「倉野さんを巻き込まないで欲しいんです」


「何の話だ」


「倉野さんは里浦を追うって言ってました。でも、あの男が裏で何やってるかもう逢坂さん知ってるんですよね?」


「さぁな」


 逢坂はうそぶきながら新垣に背を向けて、止めた足を踏み出そうとした。


「波多野さんの情報網もなかなかですけど、オレの情報網だって負けてませんよ、遊んでるようで仕事してるんですから」


「へぇ……それで、お前のとっておきの情報ってのはなんだ」


「“渡瀬会”ですよ」


「っ―――」


 刹那。思いがけない新垣の言葉が逢坂の背中を突き刺した。見開かれた双眸を新垣に見られずに済んだのは幸いだったと、逢坂は思わず吐息を漏らした。


「逢坂さんは里浦自体に興味がない。だとしたら里浦と関わりのあるもので、ドがつくくらい黒くて怪しいものって調べてたらようやくわかったんです。逢坂さんは“渡瀬会”がなんなのか知ってるんでしょ?」


「知らないな。たとえ俺がその“渡瀬会”とやらを知っていたとしても、この俺がそう簡単に口を割るはずないだろ。残念だったな……ガキの相手してる暇はない」


「逢坂さん!」


 食い下がるような新垣の声を背中に聞きながら、逢坂は振り向きもせず手をひらっとさせると、そのまま歩き出した。


「くそ……絶対知ってるはずなのに」


 逢坂の姿が廊下の角を曲がって消えたあとを、新垣は拳を握っていつまでも睨みつけていた。
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