ファインダーの向こう
 誰もいない寿出版の地下駐車場。


 逢坂は踵を鳴らしながら足早に自分の車に戻ると、荒々しく運転席へ滑り込んだ。そしてドアを閉めるとため息をついた。


「余計なとこまで嗅ぎつけやがって……」


 挑発を含んだような新垣の言葉に、柄にもなく動揺してしまった。それに加え、ひとつ気にかかっていることもあった。


 ―――その後すぐに帰っちゃったんです。その様子がちょっと気にかかって……。


 いつもの自分なら、さらっと聞き流すだろう。逢坂は新垣がぽつりと言った事をふと思い出すと、小骨がつっかえているような釈然としないものを感じずにはいられなかった。


「くそ……」


 その時―――。


 携帯の着信音がピリリと鳴り響いて、逢坂はハッと我に返ると携帯を耳にあてがった。


「なんだ」


『お疲れ様です。お変わりないようですね、逢坂さん』


「おまえもな」


『えぇ、おかげさまで』


 逢坂には表示を見ずとも相手が誰だかわかっていた。慇懃無礼じみた冷淡な声を気にもとめず、逢坂が言った。


「やっぱりR&Wのガサ入れ情報は本物か」


『私がこうして逢坂さんにその報告のお電話をしているのが何よりの証拠です』


「それはそうと、先日送った俺からのプレゼントは気に入ってくれたか? と言っても、元は俺のものじゃないけどな」


『はい、こちらでも捜査は進めていましたが……音声も神山ルミ本人のものと断定されましたし、証拠品として扱わせていただきます。逢坂さんは、今からこちらに?』


「あぁ」


『……そうですか』


 電話越しで男の声が下がると、逢坂は胸に広がった暗雲に眉を顰めた。
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