ファインダーの向こう
第七章 口づけの誓い

Chapter1

 ひと気を忍ぶように、クラブR&Wは恵比寿の片隅にひっそりと佇んでいた。


 沙樹はルミからの電話のあと、新垣から逃げるように寿出版を後にしてそのまま電車に飛び乗った。自ら闇の根城へ飛び込むような真似をして、昔から無鉄砲なところは自覚している。


(でも、自分の目で確かめたい……逢坂さん、怒るかな……)


 そう思いながら沙樹は電車の窓に映る自身を見つめ、心のどこかでは逢坂のことを考えていた。


 ルミとR&Wの前で待ち合わせて、時間通りにルミが現れるとそのまま地下へ通された。R&Wの噂については前々から知っていた。他社の雑誌に体裁の悪い記事を書かれていて、最近ほとぼりが冷めてきたところだった。



「いらっしゃいませ。ルミさん、お席の用意はできてますので奥へどうぞ」


「ありがとう」


 ドアの前に立つと、出迎えのボーイがすっとドアを開けて店内へ促した。


 初めて足を運んだR&Wは、見ただけで高級な雰囲気が感じ取れた。沙樹はセーターにスカートとカジュアルな服装できてしまったことを後悔した。


「いいのよ、そんなかしこまらなくたって、VIP席は個室になってるから気にしないで」


 そういうルミはあっという間に店内の雰囲気に馴染んでしまっていた。


(そんなこと言ったって! 向こうにいるのはどっかの社長っぽいし! あそこにいるのだってテレビで見たことある顔だし!)


 沙樹の通された席は、ゆったりと落ち着ける個室感覚のボックス席で、天蓋がかかっている。ソファも高級革張りで座り心地もいい。


「な、なんか……私、結構場違いだよね……」


 向かいに座って寛ぐルミに沙樹は小声で耳打ちするように言う。


「沙樹はほんと、相変わらずね……。控えめというか……。沙樹、本当にごめんなさい」


「え……?」


 あまりにも唐突なルミの謝罪の言葉に、沙樹は一瞬なんのことか理解できなかった。


「ど、どうしたのルミ……?」


「私……取り返しのつかないことしてる」


 伏し目がちなルミの表情を見て、沙樹はあのレコーダーに録音されていた里浦との会話を思い出した。


 ―――思い切り飛べるドラッグをさ。
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