ニセモノ×初恋=??
井ノ上はそんな周りを見回して、冷やかすギャラリーにしっしっ、と追い払うかのようなしぐさをしてみせると、

「だから各務、俺の気持ちは嘘じゃない。今すぐに返事をくれとは言わないから、真剣に考えてみてくれ」

私の目を見てそう言った。



なので、


「あ?えーっと…私、児玉くんとつきあってるから無理」


と答えてみた。


「返事早っっ!!」

思わずギャラリーから突っ込まれる。

―――いや、だって。いつまで続くかわからないけど、児玉くんと約束してるし。

壊してしまった携帯分はきちんと役にたたなきゃ申し訳ない。

それにやっぱり、井ノ上を恋愛対象としてみるなんて考えられない。

「この前も、ごめん。真剣なんだとしたら、本気でごめん。とことん、恋愛には向かないみたい、私」

と謝る。

井ノ上はあまりにも早く返事をしたのがショックだったようで、変な表情をしている。

「児玉くんもごめんね、妙なことに巻き込んで」

児玉くんには頭を下げた。

「いや、俺は……各務さんが俺の傍にいてくれるならそれでいい。それに…」

児玉くんが私の顔に手を伸ばす。

「誰にも、渡すつもりないから」

頬に触れながら言う児玉くんのセリフに、ギャラリーから悲鳴に近い声が次々にあがる。



―――えーっと。人前で何言ってんだ、この人は。



思わず固まりかけてしまった。

ニセモノの彼女相手に、ここまでのラブラブっぷりを見せなくてもいいのに。


ここで動揺してしまったら、負けのような気がして。

なるべく冷静を装う。



井ノ上には悪いけど。

恋愛感情がないのは事実だから。



「ごめん、井ノ上」


と頭を下げた。
< 311 / 558 >

この作品をシェア

pagetop