心の扉
自宅に帰ると 母が台所で 食事の準備をしている。 リズムが整う まな板の音が 玄関まで聞こえていた。

母は鼻歌を奏でていた。 母の機嫌を損ねたくなくて 物音を立てないように 自分の部屋へ入り 着替えを済ませた。

母に気づかれないように 玄関から抜け出した。

自宅から5分ほど歩くと 海岸がある。 そこへ行きたかった。

誰も居ない海岸は 波の音だけが響いて 誰の視線も 気にすることもない。 ひとりでいると 誰の機嫌も 伺わなくてすむから。

その日は珍しく晴れていて 海岸が太陽の光で照らされて 砂底が光に反射して 海を別色へ変える。まるで沖縄の海のように 綺麗だった。

海を眺めていると 自然に思い浮かべることは 「死」 だった…。
< 5 / 29 >

この作品をシェア

pagetop