雨の日は、先生と
バスを降りて、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

左手の小指に、そっと触れる。
あの日からずっと嵌めっぱなしのピンキーリング。



「天野先生……」



この丘の上なら、どんなに大声で叫んだって、誰にも聞こえないね。
先生のことを想うこと、大空だけは許してくれる。
誰も許してくれなくても、この青い空だけは。



「先生!!!」



先生、今もどこかで生きていて。

呼吸を、やめないで。


この願いが届くまで、その目を閉じないで―――



自分の声が、こだまして、そして消えた。

返事をしてくれる人がそばにいるときに、言えばよかったんだ。

止められても、それで終わってしまうとしても。

言えばよかったんだ。



先生が好きだと。


先生だけが、好きだってことを。




「好きだよ、先生。」




小さな小さな声でつぶやいた。

零れる涙を、風がすくっていく。

私は成されるまま、風に涙を預けた。



行こう。



そして、私は一歩を踏み出したんだ。


思い出したくないあの日。
あの日から先生と私は、離れていった。


そう。


先生とのたった一度のデートをした場所。


先生の友達がオーナーを務める、あのレストランに―――
< 101 / 119 >

この作品をシェア

pagetop