雨の日は、先生と

傷付いて

次の日もやっぱり、放課後の数学準備室に先生はいなかった。
理由は分かっているのに、先生に避けられているのではないかという勝手な想像が膨らむ。

先生のいない準備室に一人でいるのはもっと寂しくて、私はうつむきながら家に帰った。


やっぱり、私の居場所は先生のところだけなんだよ。
図書室でも、数学準備室でも、教室でも。
先生のいるところが、私の居場所なんだ。

先生のいない準備室は、いくら先生に認められたって「居場所」なんかじゃない。



玄関の扉を開いて、男物の靴だけが置いてあることに気付く。
その瞬間に、竦みそうになる足を必死で抑える。

自分の家なのに、いつだってびくびくしていなくてはならないことが、今は無性に苦しい。

安心できる場所を、知ってしまったから――


そうっと二階の部屋を目指していると、背後でバタン、と音がしてドアが開いた。
飛び上がりそうになって、思わず振り向く。


「……んだよ。お前かよ。……黙って入ってくんじゃねーよ。」


「あ、ごめんなさい、……大路……さん。」


「は?気安く名前呼んでんじゃねーよ。」


「すみません……。」


「お前さ、邪魔なんだけど。」


知ってる。
そんなこと知ってるよ。

今までお母さんから、何度言われたか分からない。
あなたが邪魔、生まれてこなければよかった、って。
私だって、生まれてきたくなかったよ。
こんなに嫌われて、疎まれて、除け者にされるくらいなら。




「消えてくれない?」




その一言は、私の心を支えていた僅かなものを砕いた。



制服のまま、教科書の入ったカバンを抱えたまま、私は気付くと家を飛び出していたんだ。
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