雨の日は、先生と
後悔してももう遅い。
あんなふうに先生に背を向けてしまった後で、また先生に頼れるほど、私は図々しくない。


「助けて」という手紙だけは、入れ続けているけれど。


もう、放課後の数学科準備室には行かない。
行けないんだ。


先生と会うのは、数学の授業だけ。

補習に行かなくても、先生は何も言わない。


そうだよね。
私は、先生の手を煩わせるだけの存在だったんだから。
離れていった私を追いかけるほど、先生は優しくない。


授業中だって、一度たりとも目が合うことはなくて。
隣を通るときも、振り返らない。

もう、「どうしたの。」なんて優しく尋ねてくれない。


人に嫌われるのも、背を向けられるのも慣れている。


だけど、殴られるより、蹴られるより。
消えてって言われるよりも。

先生の無視がつらい。



図書室で見上げた横顔。

ラーメン屋さんの提灯に照らされた笑顔。

困った顔、無邪気な仕草、いたずらっぽい目。

手のひらを包む、遠慮がちな温度。



すべてが私の中に、あまりにもくっきりと刻まれているから。

先生なら分かってくれると、心のどこかで期待していた。


だから尚更。



先生と目も合わない日々が続いても、その想いが消えることはなかった。
むしろ、もっと強く、もっと痛みを伴って。

だけどもう、引き返すことはできなくて――
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