雨の日は、先生と
先生が、生徒用玄関の前まで車を移動させてくれた。

――ほんとはいけないんですが、内緒ですよ。

なんて言いながら。


先生にかばわれながら歩く幸せを、せめて今だけは噛みしめていたかった。


静かにドアを開けて、また助手席に乗る。
前と同じ、フローラルな香りが車内を包んでいる。

そして、先生も隣に乗り込むと、ドアを閉めた。


この間の音楽は、かけようとしない。


エンジンは掛かっているのに、ちっとも発進させようとしない。



「笹森さん。」



「はい。」



先生は、思いつめたような声で、囁くように言ったんだ。



「許されることではないんです。」



「え?」



「これは、大変な罪です。」



「あ、まの先生……。」



「でも―――」



先生は、言葉を切って、ハンドルを抱え込むようにうつむいた。
その姿の中に見える苦悩に、私はドキッとしてしまう。



「もうこれ以上、気付かないふりなんてできない。」



独り言のように先生は言って、静かに車を発進させる。

安心したら、熱で頭がぼうっとしてきた。

今、先生が隣にいるということさえ、夢なのだと思った。



「眠くなったら、寝ていていいですよ。」



その声に、誘われるようにすっと眠気がやってきて。
私は、そのまま意識を手放したんだ――
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