雨の日は、先生と
家に着いてケータイを見ても、メールは入っていなかった。

夕飯を食べても、お風呂に入っても。


部屋のベッドに仰向けに寝転んで、ひたすらにケータイを見つめる。


でも、ランプは光らない。
いくら待っても、ちっとも返信がこない。


律儀な先生なのに。
返信が来ないなんて。


下らない、と思うのに、どうしても不安が募ってゆく。


先生は、今どこかで倒れているんじゃないか。

それとも、また病院に行っているのでは。

不安が溢れ出してくる。



勉強をしようとノートを開いても、ケータイばかりに目が行ってしまう。

光ったと勘違いして開いて見たり。

どうでもいいメールだったり。

でも、肝心のメールは来ない。



待って待って、諦めて眠ろうと思った時だった。


光の点滅が、私の目に飛び込んできた。



震える手でメールを開く。




Re:笹森です。


焼き魚。




一瞬、え?と思う。
間違いかと思いきや、ちゃんと私のメールに返信された、天野先生からのメールだった。

私はしばらく、考え込む。

そして、分かった。


私、今日の夕飯のメニューを先生に尋ねたんだっけ。



思い出したら笑いが込み上げて来るとともに、なんだか悔しくなってきた。

こんなに心配したのに、たった3文字で返信するなんて。



「先生の意地悪。」



声に出して言ってみると、やっぱり笑えた。

なんだっていいんだ。

これだけでも、今、確かに先生がそこにいる証となるのだから。




ReRe:笹森です。


おいしかったですか?




送ると、今度はすぐに返信が来た。




ReReRe:笹森です。


ええ。とっても。




いかにも先生らしい返信に、私の心は和む。
同時に、切なくて、泣いてしまいそうになる。




ReReReRe:笹森です。


そうですか。
よかったですね。




それを最後に、その日はもうメールは返ってこなかった。
だけど、すごく、すごく嬉しかったから。

愛と呼ぶには幼すぎて。
でも恋と呼べるほど、簡単な気持ちじゃなくて。

あの頃の私たちは、幼い子どものように無邪気に、日々を過ごしていたね。
お互いに、本当に見つめなければならないことから、そっと目を逸らし続けながら―――
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