雨の日は、先生と

「先生。」


久しぶりの補習。

先生と向き合うのは怖いけれど、それでも私は決めたから。
もう逃げないって。
先生の幸せを願うふりして、本当の気持ちにふたをするのは、もうやめたから。


「笹森さん。待っていましたよ。」


温かい先生の微笑み。

ああ、やっぱり私の居場所はここなんだ。
ここしかないんだ。


「先生。」


「何ですか?」


黙っていると泣きそうになるから、私は一生懸命話題を探した。


「焼き魚って、しゃけですか?」


先生がふっと笑う。

昨日のメールを思い出して、胸が一杯になる。


「そうですよ。とってもおいしかったです。」


「いいなー。」


先生の嬉しそうな顔を見るだけで、私も嬉しくなる。
おいしかった、って聞くだけで、私も満たされた気持ちになる。

だけど先生が笑うと、とても優しく笑うと……私は泣いてしまいそうになるよ。



「さあ、始めましょうか。まずは数学から。」


微笑んだ先生の目に宿ったいたずらっぽい光。
その表情が、私は大好きだ。


「数学の次は?」


「さあ?数学を頑張ったらのお楽しみです。」


とぼけてみせた先生が、教科書を開く。

今日は、何を教えてくれるの、先生。


秘めた心の切なさよりも、この時だけは幸せが勝っていたよ―――

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