雨の日は、先生と
その日は、結局そのまま先生の車に乗って帰ってきた。

私の濡れた髪を気にしていた先生。

私は、何度も「大丈夫」と繰り返したね。


先生。


最初から分かっていたでしょう?


その左手の指輪が、すべてを語っているじゃない―――



それなのに、どうして。

どうして私に星空なんて、見せたがったの?

どうして、思い出の店に連れて行ったの?



私は、「大丈夫」。


この胸が切り裂かれるように痛んでも、切り裂くのが先生なら構わない。



だけど先生は、どうして最後まで、あんなに苦しそうな顔をしていたの?


分からない。

分からないよ、先生。



どうして、優しいふりだけしていられなかったの?―――




暗い玄関に降り立つ時、幸せはもう残っていなかった。

ここを出た時の、あのきらきらした幸せは、もう破片になって散ってしまったんだ。

目を逸らし続けてきたあたりまえのことに、先生と一緒に気付いてしまったから。



先生は、暗い目をして車に乗り込んだ。

そして、小さく笑ってハンドルを握る。



そのまま、どこか遠くに行ってしまうような気がして。


私は、雨に濡れながらも、必死に微笑み返したんだ。
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