雨の日は、先生と
帰り際、先生は言った。


「笹森さん、今週の土曜日、迎えに行きますね。」


「はい。」


「夕方にしましょう。この間と同じ時間でいいですか?」


「……はい。」


先生の事務的な口調を聴きながら、この間の約束とは決定的に違う何かを、私は感じ取っていた。

あの日から。
あの雨の日から。

先生と私は、少しずつ離れていったんだね。

恋の喜びと、愛の厳しさの間には、渡ることのできない広い川があって。
その川に浸かる度に、私たちの体温は奪われていった。


どんなに愛していても渡りきれない川だったんだ。


そんなこと、最初から分かりきっていたことなのに。



「いつもの公園で。」


「はい。」



嬉しい、と伝えたいのに。
待ち遠しいと言いたいのに。

それさえも言わせてくれない先生の固い表情が、私をうつむかせる。


冬が深まって、心の奥まで冷たい風が吹き込んできて。

私は、消えてしまいそうだった―――
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