雨の日は、先生と
重い扉を押す。


奥に座っているのは、校長先生だ。


そして、その前に立っている、



天野先生。




息を呑みそうになって、慌てて抑える。

無表情の天野先生は、何を考えているのか分からなくて、怖かった。



「えー、笹森さんも来てくれたようだから、訊きたい。いいかね?」


「はい。」



天野先生が、低い声で答えた。



「最近、廊下にこんな張り紙が貼られているそうだが……ケホン。」



校長先生が広げたのは、いつも私がはがして回っている、あの張り紙だった。

天野先生は、一瞬目を遣っただけで、すぐに遠くを見るような目をした。



「君たちは、その……、いや、疑っているわけではないんだ。天野先生のことは、心から信頼しているからね。」



天野先生は、大きく息を吐き出した。



「そのような事実はありません、校長先生。」



はっきりと先生が言った。

私は、その声に、耳を覆いたくなる。


分かっている。

分かっているけれど、やっぱり悲しいよ。

目の前で、先生にこんなふうに言われたら、悲しいよ……。



「本当かね?」


「彼女は、……笹森さんは、私の大切な生徒です。……それ以上でも、以下でもありません。」


「笹森さん、あなたにも訊いていいですか?天野先生の言っていることは、本当ですか?」



少しだけ見ると、先生は暗い目をして、彼方を見つめていた。

私は、どうしたらいいか、分かっている―――



「はい。」



答えると、校長先生はにっこりと笑った。



「安心しました。午後の授業があるでしょう。戻ってよろしい。」



失礼しました、と言って、先生と一緒に校長室から出る。

廊下で一瞬立ち止まって、先生と視線を交わした。



先生は、やっぱり何も言わなかった。




あの日、私は思ったよりずっとショックだったんだよ、先生。

先生にはっきりと関係を否定されたことで、私の心を支えていた何かが、崩れ落ちるような気がした。

先生と私の人生は、二度と再び重なり合うことはないと、そう感じたからかもしれない。




先生、雨が降っても。

放課後の図書室でも。

数学科準備室でも。



もう、あなたには会えないんだね。



前みたいに、話すことさえ、できないんだね。



その切ない視線だけが、先生と私の間に確かにあった何かを、意味していたんだ―――
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