雨の日は、先生と
第11章 先生のいない日々

休職

いつの間にかセンター試験も終わり、明日から自由登校だ。
水曜日だけ登校日になっていて、それ以外は基本的に自由。

学校に来て勉強する人もいれば、家から出ない人もいる。
学校に来るのは、面接や小論文の指導を受ける生徒が多いらしい。



校舎に入る手前で、粉のような雪が舞い始めた。

私は、思わず空を仰ぐ。

氷の粒が、目に入って痛かった。



急に、怖くなった―――



みんな、自分の将来のことを考えて、一生懸命頑張っているのに。

今を生きている人たちの中で。

私は、何をしているんだろう。


今、すべきことが何もない。

だから、自由登校で学校に来る理由さえ、私には見付けられない。


ただ、先生に会いたいだけ。

こんなにも離れていても、それでも。

先生のこと、見つめていたくて。

卒業までの、あとほんの少しの間、先生をこの視界から、失いたくなくて。




だけど、朝のHRで、担任が発した言葉は、私のささやかな願いさえ打ち砕いた。



「君たちの数学の教科担任の天野先生なんだけど……、今日からしばらくの間休職することになった。詳しい理由は俺も知らない。だから、自由登校のときに数学の質問をしたければ、他の数学の先生のところに行くように。」



休職。



その二文字が、私の心を掻き乱した。




先生には、もう会えないんだ。

先生は、きっと病気が悪化して、入院しなければならなくなったんだろう。

卒業までに、学校に戻って来るなんてこと、あるはずない―――




先生。


先生、先生―――




何も言わずにいなくなるなんて。



うつむくと涙がこぼれそうで。

私は必死に瞬きをして、涙を引っ込めようとした。



だけど、視界はぼやけていくばかりで。



先生のいない世界は、こんなにも頼りなくて、寂しくて、悲しくて、冷たいんだね。

先生に出会ってから、学校に来れば先生に会えるのが、当たり前だったから。

忘れてしまっていたんだ。



どんなに悲しい時も、数学科準備室に来れば、先生が、温かい笑顔で包んでくれた。



人に甘えることをやっと知ったのに、もう誰も、私を受け止めてはくれない。


ひとりなんだ―――




雪が、私の街を、先生の街を真っ白に染めていく。

先生は、今どこにいるの?

誰と一緒にいるの?


寂しい思いしてない?

苦しい思い、してない?



この雪で、すべてが真っ白になってしまえばいいのに。

私たちの心も、真っ白にしてしまえば。

そしたら、誰より先に先生に会いに行くよ。

その真っ白な心に、一番最初に描くのが私であるように――――
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