雨の日は、先生と
ひとり下駄箱でかがんだ時に、背後に気配を感じた。

恐る恐る振り返る。



すると、そこには険しい顔の楓が立っていた。



「楓……」



しばらく黙ったままで、彼女は私を睨んでいた。

絶対に許さない、そう言った彼女の決意は、この先も変わらないのだろう。



「あんたさ、誰でもいいんでしょ。」


「え?」


「男なら、誰でもいいんだろ?お前の母親と同じで。」



新野君のことを言っているのだと分かった。



「そういうんじゃないよ。」


「叩きがいもないのね、あんたって。……あんたが一番失いたくないものは、天野先生ただ一人だと思ったのに。それなのに!」


「終わったの。楓。全部、終わったの。」




楓は、私と先生を引き離すために、チラシを貼ったりしたんだね。

だけどね、楓。

あのときにはもう、すべてが終わっていた。

あのチラシで、私と先生を引き離せたわけじゃない。

ただ、私も先生も、傷口に塩を塗られただけなんだ。




「お父さんが、言ってた。唯は悪くないって。唯のお母さんも、悪くないんだって。」



険しい表情のまま、楓は燃え盛るような視線を私に向ける。



「そんなわけないじゃん。悪いのはあんたたちも同じじゃん!」



楓の怒りの矛先は、もはや私に向けられているのではない気がした。
ただ、収まりようのない怒りが、込み上げてくるだけで。

怒鳴った後、脱力したようにうつむいて、楓は去って行った。


私は、しばらくその場に立ち尽くすしかなかった―――
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