逃亡


新しいスマホで実家にかける。

“ちょっと、蓉子ちゃんから電話があったわよ。”
「そう、」
“アパートに帰ってないらしいじゃないの。
電話も繋がらないって、蓉子ちゃん心配してたわよ?
何かあったの?”
「……喧嘩したの。」
“喧嘩?”
「うん。」
“そうーーー何があったか知らないけど、大丈夫?”
「え?」
“泣きそうな声だから”
「お母さん…」
“無理しなくていいのよ”
「ん…」

番号を変えたことを伝えたら、驚いていた。

流石に、蓉子が彼の浮気相手だったとは言えなかったけど。
番号を変えるほど、余程の事だと分かって貰えて、蓉子から連絡があっても、新しい番号は教えないと約束してくれた。

「ありがとう……」
“何言ってるの”
カラカラと笑うお母さん。
本当に、帰りたくなるーーー
“今日はお誕生日ね”
「ん。」
“おめでとう”
「ーーーありがとう。」




一番に史也が言ってくれる筈だった言葉を、お母さんが言ってくれた。


もう、いいや。
史也も、
蓉子も、
どうでもいい。


史也とは縁が無かったんだ。








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