逃亡


ビジュアル系バンドに怖いイメージを持っていた私に、ハヤトさんは懐かしそうに目を細めた。

「彼女…あー“嫁”も、そうだったよ。」

「ハヤトさーん、“嫁”ってとこ、ニヤけ過ぎです。」

屋嘉部さんのチャチャに、ハヤトさんは「五月蝿いな、お前」と睨むけれど、チッとも怖くない。

「沢山誤解があって、すれ違ってーーーまあ、殆ど俺が悪かったんだけど。」

ハヤトさんは、アイスティーを口にした。

「記者会見位でアイツが少しでも安心するならーーーメンバーには迷惑かけっけど、」
あ、真那ちゃんにもかけたか、とハヤトさんは苦笑した。


『誤解があって』
『すれ違って』


この言葉が、グルグルと回る。








私は、ハヤトさんを迎えに来た、事務所の車を見送って、私を追い出そうとした店長に謝罪に聞こえない“謝罪”を受けていたーーーと言うか。

「准が言わねえからだろ。」
「ちょっと!思い違いしたのはアンタでしょ、悪かった、って、言えないの?」
「……。」

ハヤトさんが居なくなったゲストルームで、ソファの背もたれに背を預け、長い足を組む店長さんに。

「自分の非を認めなさいよ。」

上から目線で詰め寄る准さん。

「准さん…。店長さんも、緊急事態だったから、仕方ないよ。」

事務所に頼まれてハヤトさんを匿っていたお店側としては、初対面の私は当然の扱いだと思う。

「……悪かった。」

そう言って、店長さんはそっぽを向いた。

「「……。」」

赤くなった耳に、つい、目がいってしまうーーーきっと、悪い人じゃないんだ。


「ーーーアニキが、謝った!」

「准、うっせー」
「え?」

出会ったばかりの友人には、謎が多そうです。






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