逃亡
有名な番組ーーーテレビ音痴の私でも聞いたことのある番組達のロゴをバックに立つ一本のスタンドマイク。
颯爽と表れたハヤトさんに、一斉にカメラのフラッシュが集れた。
「始まったね。」
「黙って見とけ。」
「……。」
店長さんーーー屋嘉部理巧さんの車で准さんのマンションに戻った私達は、そのまま一緒に、ハヤトさんの記者会見を見ることになった。
『お相手のお名前を教えて下さい。』
『……一般人なので、名前も、写真も勘弁してください。』
『年齢は?』
『……同じ歳です。』
『、同級生、とか?』
「名前も写真も勘弁、って、言ってんのに胸糞悪い奴ねえ。」
「それぐらい、ハヤトだって覚悟してんだろーーーそれより、」
『この結婚は、花梨さんと不倫騒動のカモフラージュという話も聞きましたが。』
激しくなるフラッシュに、片隅に注意を促すテロップが表示される。
「、ほ~ら、おいでなすった。」
“不倫”というワードに、動揺してしまう。
『違います。花梨、木梨さんとは無関係です。』
「ウキ~ッ!何でそこで言い直すかなっ!」
准さんがソファで地団駄を踏む。
『お二人は、名前を呼び会う仲なんですか?』
『……。』
『どうなんですか?』
『……。』
『現在進行形じゃないんですか?』
『……。』
『木梨氏は、お二人のことご存じなんですか?』
『……。』
『別居はハヤトさんが原因だったんですか?』
『……。』
「「……。」」
ハヤトさんは、矢継ぎ早の質問に前を見据えて沈黙していた。
『……。』
『……。』
やがて、静かになった会見場。
ハヤトさんは、スタンドマイクを愛しそうに撫でた。