逃亡
ー4
今日は、私の誕生日。
チェックアウトして、まず一番にスマホを買い換えた。
データを移行するため電源を入れると、店員は眉をしかめた。
「あのーお客様、」
スマホを差し出しながら、未読メールをどうするか聞いてきた。
「消しちゃって下さい。」
スマホを見ずに努めて明るく答えた。
「しかし…」
食い下がる店員。
きっと、店側では消せないルールになっているんだろう。
仕方ないと受けとった。
未読メールは20件。
着信は3倍。
「ーーー。」
罪悪感に負けないうちに空かさず、二人を拒否登録する。
メールを見るか迷ったけれど、見ずに消すことにした。
内容は二人で辻褄を合わせた言い訳に決まっている。
未読マークの着いた蓉子のメールにチェックを入れて削除する。
チェック仕切れない史也のメールはフォルダ毎削除した。
皮肉なことに、過去の史也のメールを消したくなくて、受信フォルダを別にしたのが役立った。
真新しいスマホから、二人の名前は消えていた。