セカンドデビュー【完】
「失礼な話だよね」
「琴音」

聞いてたの。

「知ってる? 僕の母親は水原アヤじゃないらしいよ」
「……」
「あいつが主役で僕が脇役、悔しいに決まってるだろ。でもそれだけでケンカすると思うかい」

それはそうだ。
ただ、大場ユキトは、何故、そんなことを言ったんだろう?

「あいつにそんなことを言われる筋合いはない。そうでしょ?」
「ああ」

記者会見が始まります、集まってください、とスタッフに呼ばれる。

「琴音。笑って笑って」
「……」
「せっかく仕事なんだから、笑って。楽しんでやっておいで」
「楽しんで……。そんな気分じゃ」
「きれいな顔がもったいないよ。むすっとしてたら損だ。さ、行っておいで大丈夫だから」

記者会見では、挨拶をして座っていただけで、ユキトとはとくに絡みはなかった様子だ。

ポスターにも小さく写っているだけで、琴音は終止不満顔だったが、記者会見の間だけは頑張って笑顔を浮かべていた。

衣装合わせをすませると、ユキトと顔をあわせようとせず、さっさと琴音はスタジオを出た。

< 168 / 592 >

この作品をシェア

pagetop