セカンドデビュー【完】
主役の過去のシーンなのに、一緒に打ち合わせとかしないんだな。
琴音とプロデューサーは、カメラマンと打ち合わせをしている。
たったひとことだけの台詞で、このシーンの主役にならないといけない。

オレは遠くから見つめることしかできない。


オレの視線に気づいた琴音が、小さく微笑んだ。



別人のように柔らかな微笑みで。




いつもなら、「プリン買ってきて」とか平気で言うのに、もう、役に入っているのだろう。
……役者ってすごいなあ。

子供のころ、撮影の最中に見ていた、母親を思い出す。
知らない人のように感じていた、彼女は仕事中は常に完璧だった。

もういないとわかっているのに、ドラマの撮影中は、彼女をいつも感じる。
もう一度会えるような気がしてしまう。
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