セカンドデビュー【完】
夕食が済んで風呂にでも入ろうかという時刻に、鏡原が訪ねてきた。
外に連れ出されて「美香さんがアメリカに行く話を聞いたことあるか」と聞かれる。

「いいえ? 亡くなる前母とは会っていませんでしたし。ライブの時に花を贈ってくれる程度で、母と会話なんてなかったんです。家を出ていってそれっきりでしたから」
「時々、ドラマとか映画に出ていただろう。連絡取ったりしなかったのか」
「テレビに出ている限り、生きてるってわかってましたから。うちは父子家庭みたいなモンだったんです」
「……そうか。実は水原アヤが証言していてな。ところが、証言のウラが取れないんだ。そんなことを言ってる人間が見つからない」

お前なら何か知ってるかと思ったんだが、と鏡原は煙草に火をつけた。
琴音のマンションから少し離れた公園。
最近は公園にも灰皿がなくてな、と呟く。

部下の玉木刑事が「タバコ止めたらどーです」とすかさず言う。

「つい吸っちまうんだよな」
「体に悪いですよ」
「タマテルは吸わないな」
「14の時に止めました」

いや、吸うの早過ぎだろ。

「なんでタマテルなんですか?」
「名前が玉木輝彦だから。テルヒコっていうんだ」

タマテル静かにしてろ、と鏡原が叱った。
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