セカンドデビュー【完】



「やっと契約かー……」

レッスンに通って、オーディション通って。
やっと、契約決まったと思ったら、付き人って。

「……」

付き人って……。
まあ、一歩進んだと思えばいいか。

……こんな、とんとん拍子に話が進んでいいものだろうか。
何か裏があるんじゃないか。
そんな不安が、時折胸をかすめる。

窓に映る顔を見つめて(大丈夫、大丈夫)と言い聞かせる。
家につく頃には少し落ち着いてきた。

ただいま、と玄関を開ける。
誰もいない家、返事なんか帰って来ないことは解っているのに。
両親の正しいしつけの結果と言えないことも、ないけど。

「母さん、ただいま」

プリンを仏壇にお供えして、仏壇に手を合わせる。
オーディションに受かったよ、少し思ってた条件と違うけど。
本当は直接、報告したかった。
線香の煙が、ふっと目に染みた。

「水原さん、元気だったよ」

仲良しだったのに。うちの母親だけ先に死ぬなんて。

「大丈夫だから。うまくやるよ」

デビューしてみせる。
約束するよ、お母さん。


そうだ。
明日は水原琴音と会うのか……。
コンビニで遭遇した、水原琴音は可愛かった。
いい子だといいな。
一緒にやっていくんだし。
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