セカンドデビュー【完】
第8章 冬の津軽

冬の津軽

猛暑だった夏が過ぎ、12月の東京は曇り空が多くなった。
灰色の水面を見つめて、オレはコートのポケットに手を突っ込んだ。

死体が上がった場所だというのに、川岸はお構いなしに雑草が生い茂っている。

お前らはいいよな。生きてて。

進展しない捜査に、どうしたらいいかわからない。

2時間サスペンスドラマのようにスイスイと捜査は進まない。
ドラマと現実は違う。

見上げると、多摩川にかかる橋は今日も車が行き交っている。
その時、橋からおーい、と大きな声がした。

「?」
「おーい! あんただアンタ! オレンジの髪してるアンタ!」
「オレ?」

今行くからそこで待ってろよ、と見知らぬ人が呼び止めた。待っていると、ホームレスらしい男性が「あんたテレビに出てただろ」と言った。

「そうですけど。あなたは?」
「オレは権田っていう。そこの川辺に住んでる」
「住んでる?」

この寒いのに川辺に住んでるんだろうか。

「下にダンボールの家があっただろ」
「ああ……そういうことですか」

身に着けている服も清潔とは言えない。

「水原アヤを見たよ」
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