セカンドデビュー【完】
母の部屋は、時が止まっていた。

花柄のピンクのカーテン。
彼女が高校生だった時の、当時のアイドルのポスターが色あせたまま貼ってある。顔はもうわからない。

机の引き出しには、何枚も写真が入っていた。

お城とアヤさん。
ピースをして写っている女子高生。
幸せそうな笑顔で。


8センチCD。古いファッション誌。
使いかけのハンドクリーム。
シャープペンに、書き込みの少ない数学のノート。

リボンの形のピアス、固まったピンクのネイル。

「カワイイ」

その辺の女子高生だった彼女。
四角いミラーに、キャラクターもののシールが貼ってあった。
この机で、勉強をして、お化粧をしていたんだ、きっと。

自分が知らない、母の姿が見えたような気がした。


「寒いからそろそろ下りてこないか」

祖父が呼びに来て、オレはおもわず膝をついた。

「……ごめんなさい!」

おもわず土下座をしていた。

「母を守れなくてごめんなさい。オレは……」
「……」
「息子なのに……。本当に申し訳ないことを」

謝ってもどうにもならない。
でも、母が東京に出てからも彼女の持ち物を処分できなかった、
祖父の気持ちを考えたらいくら謝罪しても追いつかない。

「お前のせいじゃない」


「どうにもならないことに責任を感じなくていい。お前のせいじゃない」
「でも……」
「あの子が出て行ったのはあの子の責任だ。自分で選んだ人生の結果だから、お前のせいじゃないから」

母が死んで、もう涙なんて涸れたと思っていた。
オレは、祖父の前で泣き続けた。
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