セカンドデビュー【完】
泣き疲れてオレは寝てしまっていたらしい。

頬に猫の毛を感じて目を覚ました。

冷蔵庫の上にいた三毛猫が、そばで寝息を立てていた。

「アルバム見るか」

母が子供の頃の分厚いアルバムを差し出される。

小学校の頃から美少女だったんだ。
ショートカットで長身で、明らかに目立つ。
琴音に似ていると、おもわず息を呑んだ。

中学に上がると、急に大人っぽくなった。
長い黒髪にポニーテール。とにかく前に出ている写真が多い。
目立ちたがり屋だったのは昔からだったらしい。

この頃から、隣にはアヤがいるようになった。
同じ髪型のせいか、双子のように見える。

「この家に引っ越してきたから、急に仲良くなってな。遊びに行くにも勉強もいつも一緒だった。部活だけか違ったのは」
「母さん、部活はなにを?」
「中学の時は何もしてなかったな。マンガばっかり読んでた」

高校に入ると演劇部に入ったらしく、舞台写真が増えた。
祖父が撮ったものではなく、学校の写真部や新聞部が分けてくれたらしい。
この頃からきっと彼女はアイドルになりたかったんだろう。

写真に残る笑顔はどれも幸せそうだった。
「よく笑う子だった。ケンカもよくしてたが」

けんかするなら負けるんじゃないと、子供の頃に言われた。
簡単に泣くなとも言われた。

「……母は負けず嫌いで……。でもやさしい人でした」
「そうか。そうだろう」

祖父の目にも涙が浮かんでいた。
この場に母がいたら、なんてことの無い普通の団らんだったはずだ。




どうして彼女だけがいない?




アルバムをめくると、途中からは新聞や雑誌のスクラップになった。
その中から、一枚、カラーコピーが出てきた。

「……うちには一回も帰ってこなかった」
「はい?」

赤ん坊を抱いた水原アヤと、母が写っている。

「この山は岩木山といってな。この家からも見える」



津軽半島の西にそびえる、美しい山。



「岩木山神社っていう神社があってな。この写真は春先だ。4月の末」

端に日付が入っている。
それならこの赤ん坊は……オレか。

「お隣さんがコピーしてくれたんだ」
「?」
「手紙もなしに写真だけアヤさんが送ってきたらしい」

どうして赤ん坊のオレをアヤさんが抱いているんだろう。
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