セカンドデビュー【完】
街はクリスマス一色で、どこもかしこも美しく飾り付けられている。
恋人たちが楽しそうに歩く町並みを、僕は一人、下を向いて歩いていた。

昨日、父さんと話し合った。
ちょっと風呂に入っている間に、父さんは出て行った。
話の内容を考えれば、逃げ出したくもなる。

どうしたらいい?
倖太になんていえばいい?



もう誰にも相談できない。




雪が降ればいいのに。
このまま消えてしまいたいと、嘆く声は誰にも届かない。


妹たちは都内のイベントで仕事。僕はラジオの収録以外、予定がない。
家に帰り仏間に入ると、仏壇に供えた花が枯れている。
明日買ってこないと。

妹の知香が送ってきたメールを読み返す。


『お父さんが帰って来ない』。



このタイミングで姿を消すとかカンベンしてよ。


どうしたらいい?
警察に捜索届を出すべきなのか?

警察に心当たりを聞かれるだろう。
そうなれば、僕は事件のことを話さないといけない。



妹二人のマネージャーに電話をかけた。
事務所が所有するマンションに入居できるように手続きをしてもらう。
表向きは冬休み中に、集中してレッスンに通えるようにだが、
両親二人がいない家に、妹たちを二人残しておくのが心配だからだ。

僕はどうしたらいい?
この期に及んで、まだ自分の身の心配をしている。
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