セカンドデビュー【完】
「事件が解決すれば、自分の人生を取り戻せると思った。現実は何ひとつ変わらない。それどころか、オレのせいで、母も……アヤさんも、死んだ。
オレがいたら、琴音の迷惑になる」

オレがいなくても誰も困らない。
歌がうまい人はいくらでもいる、曲を書ける人はいくらでもいる。


「それは君の本音なのか」
「……!」
「その顔だ。その顔が欲しかったんだ。いいかい」

「七海晶は、アーティストで暗殺者なんだ。でも彼が心から暗殺を楽しんでいるわけじゃない。彼は、歌っている自分が本当の自分だと強く思っている」
「……」
「君も同じだ。いつまでも母親の尻拭いをさせられている自分を、本当は可哀想だと思ってるんだろ? いい子の橘倖太を演じるのに、疲れてるんだろ」


「そうですよ」

バイトしてる時も琴音のマネージャーをしていた時も。

「いつだってオレのせいじゃないのに、頭を下げてた。オレは何もしてないのに。母が死んで、それでも話題に上がるのは彼女だった。オレじゃない!」


オレの人生のはずなのに。


「オレは何をして生きていけばいい? オレはどうやって自分がここにいるとここに生きてると証明したらいい?」




「それだよ」
「え」

「七海晶は、暗殺者としての自分に、本来の歌手である自分を奪われている。裏の自分にだ。君もそうだ。良い子の橘倖太を演じ過ぎて、本当の自分を見失っているんだ」

「君なら、七海晶の歌を書ける。自分の人生を自分で取り戻せるんだ」
「……」
「本当の君の言葉で、曲を書くんだ。琴音が七海晶の姿を演じて、君が書いた歌を歌う」
「琴音が……?」
「立ち止まってちゃいけない。琴音くんも僕も利用しろ」
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