吸血姫に愛の形を
『好きなだけやる』
この一言と彼からの優しい抱擁で、彼女の理性が外れた。勢いよく彼の首に噛みつく。先程よりもたくさん溢れ出てくる血を1滴足りとも零さないように啜る。
愛美
「一騎く、ん。一、騎っ君」
彼女は求めるように彼の名を呼び続ける。
彼は名前を呼ばれると、自分が彼女から求められている。という嬉しさから抱き締める力が強くなっていく。
彼女は何も考えられない快感の中でも、彼だけを求めるように彼の背に手をまわす。
互いに求め、抱きしめ合う。その2人の表情は決して離れたくないと悲願するようなものだった。
どれほど時間が経ったのだろう。
彼はじわりじわりと目眩に襲われていた。
フラフラとして力も入らなくなっている。
そして彼は彼女に自分の体を任せ、寄りかかる状態になった。
愛美
「んっ…!一騎君…!?」
この時やっと、彼女は我に返る。
一騎
「…これ以上、血ぃ吸ったら危ねぇ」
彼女の耳元でそう呟く。
彼女はどうすればいいかと慌てるが、とりあえず自分の布団に寝かせようと思い移動する。だが、成人男性を運ぶ事は簡単ではなかった。
なんとか彼を布団まで運び寝かせると、すぐ彼が眠りにつく。彼女はこのまま彼は死んでしまうのではないかと、悲しみと後悔で胸がいっぱいになって彼の手を握る。
彼がやんわりと握りかえしてきた。
彼女はホッとして目元が熱くなる。
眠っている彼の顔を見ていると、こんな状況にしてしまったことへ罪悪感に苛まれた。
そうすると、次から次へと目から涙が零れていく。
今すぐ声を出して泣きたいけれど眠っている彼を起こすまいと、しばらく声を押し殺して彼女は泣く。
彼が眠っている今、長い悪夢の中にいるようだった。
先程、自分がした行動は異常だ。
それを理解し飲み込むのはできた。しかし、飲み込んだ後にそれが人の命を獲りかねない危険な事な行為だという自覚が足りなかったと痛感する。
しばらくすると、彼が目を覚ます。
一騎
「ん…っ」
愛美
「!!一騎君!…大丈夫…?」
一騎
「あぁ…何とかな…」
彼は苦笑し言った。
愛美
「ごめんなさい!私…私…!」
一騎
「謝んな…
好きなだけやるっていったのは俺だ」
愛美
「でも…!」
再度彼女が謝罪を口にしようとすると
彼は彼女の頬に伝う涙を拭った。
一騎
「心配すんな」
少し冷たくなっている彼の手とは違う優しい目に、彼女は安堵してしまった。