彼女
それに気付いた私は、彼とよく話すようになった。

彼が指差した黒板を見ると、"自習"という文字が書かれていた。

「やった−自習なんだ。走って損しちゃったよ。」

私は下敷きで仰ぎながらぼやいた。

「なぁ松井って3組の樋口と仲良いんだ?」

水野が沙姫のことを知っていることに内心びっくりしながら、私は答えた。

「うん。小学校から一緒なんだ。家も近いし。」

「それってさっきお前と一緒にいた子?」

鷹野は英文と睨めっこしながら視線だけ私に向けて尋ねた。

「そうだよ。手出さないでね。」

冗談半分で私が答えると鷹野が体をこちらに向けて反論してきた。

「お前な…俺はそんなに軽い男じゃないんだよ。」

鷹野の言葉を聞き流しながら、私は右肘を机につき、その掌に顎を乗せ、窓の外を眺めていた。

あのごみ箱が見える。私はさっきの彼女との会話を思い出していた。

じっとりと汗がにじむ。

何故自分が、突然あんなことを言ったのか。

いや、それ依然に、何故彼女があんなことを言い出したのか。

私はぼーっとする頭でひとつの言葉を頭に浮かべた。

"死"

漠然とした想いが私を揺さぶる。

それは恐怖にも似た感情で心の奥底に侵入し、私は慌てて思考を遮断した。

これ以上は考えたくなかった。

「あの子さ、もしかして体弱い?」

水野の声に我に返った私は、思わず振り返った。

「……え?何?」

水野は続ける。

「樋口だよ。ここ最近、保健室でよく見かけるから、体弱いのかなって思って。」

私はびっくりして体の向きを変えた。

「……それ本当なの?」

私は信じられなくて、水野に詰め寄った。

水野はそんな私の様子に驚いたようだった。

「うん。俺が仮眠しに行くとたいていいるよ。最初は単なるサボりかと思ってたけど、どうも違うっぽいし。」

私が聞くより先に鷹野が口を開いた。

「違うってどうに?」

いつの間にか鷹野は水野の方を向いて会話に参加していた。

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