彼女
「前に保健室に行ったら、奥から苦しそうな声が聞こえてきて、その時先生もいなくてさ。なんかやばそうだったから、カーテンを覗いてみたわけ。そうしたら樋口が胸押さえて苦しそうにしていたんだよ。大丈夫かって声かけてみたたら平気だって言って、そのまま教室行っちゃったんだけど、なんか様子がおかしかったから。それにたまに泣き声聞こえてくる時あるし。」

水野は私が黙り込んでしまったのに気付いて、慌てて付け足した。

「でもまぁ俺の思い違いかもしれないけど。」

私はさっきまで一緒にいた沙姫の様子を思い出してみたが、体調が悪そうではなかったと思う。

唯一おかしかったのはあの会話だけ。

けれども気になるのはあの沙姫が泣いていたという事実。

「本人に直接聞いてみればいいじゃん。」

鷹野はもう飽きたようで欠伸をしながら教科書類をしまっていた。

「…あたしたち毎日一緒に登下校してんだけど、そんなこと言われたこともないし、もちろん相談されたこともないよ。水野が言っていることを疑うわけじゃないんだけど…」
水野は苦笑ぎみで、自分の机に落書きをし始めた鷹野を叩きながら言った。

「まぁ仲が良すぎて相談出来ないっていうのもあるし。」

私はしばらく考え込んでいたが、ふと思い出したことを口に出した。

「…ところで、水野って沙姫と知り合いだったっけ?」

去年私と沙姫は同じクラスで、水野とは今年初めて同じクラスになった。

元クラスメートという関係ではないはずだ。

水野はキョトンとした顔で私を見ながら、答えた。

「あー去年委員会が一緒で、結構話したんだ。」

二人の意外な関係に、私は内心びっくりした。

「てことは…図書委員つながり?」

水野は私の言い方が面白かったらしいのか、笑いながら答えた。

「そーゆーこと。」

水野は笑うとき、目をきゅと細めて、とても優しく笑う。
私の水野の第一印象はそれだった。
だから皆が抱く近寄りがたいイメージを、私は最初から抱かなかった。

こんな風に笑う人を私はもう一人知っている。

もしかしたら似ているから、自然と親しくなったのか。


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