彼女
掃除を終えた私は、彼女のクラスへと急いだ。

掃除が早く終わった方が、迎えに行くのが二人の間の暗黙の了解となっている。

教室には5、6人しかおらず、そこに彼女の姿は見当たらなかった。

人から視線を外した。まだ高い日の光が、ちょうど彼女の席を照らしていた。

窓側の前から2番目。机の横には、UFOキャッチャーで取ったくまのぬいぐるみがついた鞄がかかっている。

初めて取れたもので、お守りにしているらしい。

時計を見ると4時を少し回っていた。

私は教室から離れて、廊下の窓にもたれかかった。

窓の外では小学生が追いかけっこをしながら家路につく姿が見える。

とても元気で、どこと無く危なっかしい彼らには、この世界はどう映っているのだろう。

自分の小学生時代を思い出してみて、つくづく感じる。

ただ前だけを見て、笑って泣いて生きていたなと。

世界は、知らない者には優しいのかもしれない。

私みたいな弱虫にはちょうどいいように。



それまで静かだった廊下から何人かの話し声が聞こえてきた。

徐々に近づいてくるそれに確信を持った私は、折れ曲がってくるであろう角に視線を移した。

階段から上がってきた数人の一番後ろに彼女はいた。

私の知らない彼女の友達と話している姿に、私はあまり待たずに済んだけれども、文句を言いたい気分だった。

「あ、綾乃。」

私に気付いた彼女は、小走りで私の元にやってきた。

「ごめん、待った?」

「ん−微妙に。」

彼女の友達の視線に気付いた私は、文句を言いかけて思わず口をつぐんだ。

「じゃあすぐ鞄取ってくるね。」

そう言ったにも関わらず、彼女が教室から鞄を持って出てきたのはそれから10分後のこと。

なんでも週番の仕事が終わっていなかったらしく、日誌を書いたりなんだりしている姿が待っている間見えた。

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