君色キャンバス
やがて、昼休みになった。
殆どの生徒達は弁当を手に、教室にたむろしたり、中庭や屋上に向かう。
しかし、紗波は弁当を持って来ていない。
当たり前だろう、昨日は美術室に泊まったのだから。
小百合が近寄る。
「弁当持ってきてないの?」
「…買えばいいだけ」
そっけない返事には、もう慣れている。
「買えばいいだけって…購買部、商品あんまりないじゃん」
「…パン一つで足りる」
「それこそ、身体が弱るよ」
「…別にいい」
小百合は、特に動きもせずノートに何かを描こうとする紗波の、鉛筆を握る手を止めた。
「…私の弁当、いる?私ダイエット中だから、あんま食べないし」
「…いらない」
必要以上の言葉を発しはせず、ノートに向き合った。
「…なら、ここで紗波の絵 見とく。紗波の下手な絵」
「…別に良いけど」
サラサラという、鉛筆が黒線を引く音。
小百合は、段々と現れてきたその絵を凝視する。
描かれているのは__小百合。
しかし、笑っては居ない。
無表情だ。
小百合のようで、小百合ではない。
紗波は気にする様子もなく、鉛筆を踊らせる。
小百合は、描かれた無表情の自分を見て、悲しそうな顔をした。