君色キャンバス
小百合が、紗波の方に寄ってくる。
「紗波、おはよ!転校生 誰だろうねー」
紗波の机に手をついて、目を輝かせながら話す様子で、本当に楽しみにしている事が解る。
窓の外では、雨が町を覆うように、大きな音を立てて降っていた。
「女の子なんだって!どんな子かなぁ」
「知らない」
相変わらず、無表情で絵を描き続ける紗波を見て、小百合は小さくため息をつき、苦笑しながら自分の席へと向かう。
そんな小百合の後ろ姿を一目も見ず、一心にノートに絵を描く。
(…転校生なんかどうでもいい)
教室は、いよいよ全員が登校し、あっという間に喧騒に包まれた。
「俺、職員室に行ってきたぜ!」
「どんな奴だった?」
「普通よりはやや可愛いと思う」
「へぇー、可愛いんだぁ。楽しみ!」
紗波はその全ての声を聞き流しつつ、チラリと扉を見た。
扉の前に、黒い二つの人影が見える気がする。
その時、キーンコーンカーンコーン、とチャイムの音が鳴った。
それと同時に、全員が一斉にガタガタと音を出しながら椅子に座る。
そして、担任の、藤村が入ってきた。
「今日は前から言ってた通り、転校生が二年三組に来る。皆、仲良くするように」
生徒たちは静かにしているつもりだろうが、小さな声は塊となって、教室にこもる。
それに負けないよう、藤村が声を上げて廊下に呼びかけた。
「植原!入ってきてくれ」
小百合は目を扉に釘付けにしているが、紗波は顔も上げずにノートの上で鉛筆を踊らせている。
やがて、ガラガラと音がして__転校生が入ってきた。
「…え…?」
その転校生の女子を見た瞬間、小百合の顔色は__真っ青に染まった。