君色キャンバス



「…あれ?もしかして__」



光が、シンと静まる教室の中で、一人 声を発する。



今まで、表情一つ変えなかった紗波の顔色が、気の所為か、少し青白く見える。



その転校生は、獣が標的を狙うような瞳で、紗波を見つめた。



そして、ニヤリと__笑顔を浮かべた。



「もしかして__あの、天才の久岡さんかな?」



その言葉を聞いた刹那、紗波の身体がビクリと震えた。



小百合がやっと、声を出した。



「光…?なん、で、ここ…に…?」



「ん?まさかお前ら、知り合いか?」



藤村が陽気な声で問いかけた。



「ええ、知り合いです!」



光がそう言って、紗波の方を真っ直ぐに見つめ、笑いかけた。



「ねぇ、天才ちゃん!」



紗波の身体が、一層 強く震えた。



そして、紗波の口が開いた。



「…う…じゃ…ない…」



その声は、いつもの淡々とした冷たい声とは違い__弱々しい。



「なんて?天才ちゃん!」



紗波が震える唇を、動かす。



「ちが、う…私は…天才じゃ、ないっ!!!」



「紗波!」



小百合が叫んだ。



藤村や他の生徒たちは、三人のやりとりと普段の紗波との変わりように、唖然としている。



「天才ちゃん!!!!」



光がニヤニヤと笑いながら、紗波にもう一度 呼びかけた。



「違う!天才じゃない!天才じゃ…ない!」



「紗波!落ち着い__」



小百合が立ち上がる。



< 105 / 274 >

この作品をシェア

pagetop