君色キャンバス
しかし、何も言わない。
「…ねぇ、今日は美術室で寝ちゃ駄目だよ」
「…寝るとこない」
紗波のその返事に、小百合はまた、悲し気に眉尻を下げる。
「…私の家に泊まってくれて良いのに」
「…小百合に…迷惑」
(ほら、また)
小百合が、心の中で呟く。
(幼馴染に迷惑 掛けちゃいけないって思ってる…なんで?もっと、迷惑 掛けてもらって良いのに)
その思いは口に出さず、ジッと紗波の美しく、表情の乏しい顔を見つめた。
「なら、どこで寝るの?」
「…美術室」
小百合が、弁当 最後のオカズである卵焼きを食べ終えてから、提案した。
「美術室は駄目だって…せめて、私の家でお風呂でも入ったら?」
「…解った」
紗波が思った以上に即答をしたことに、小百合は目をパチクリとさせる。
「…じゃ、一緒に帰ろう」
「…うん」
それだけ言うと、紗波が椅子から立ち上がった。
「え、どこ行くの?」
「授業 無意味だからサボる」
「えっ」
学年トップの成績を誇る紗波にとって、授業は無意味そのものでしかない。
紗波が数学のノートと鉛筆を持って教室から出て行くのを、小百合は眺めているしかなかった。