君色キャンバス
「…流岡!静かにして!」
祐輝は、小百合のその言葉を聞き、黙り込むと耳を澄ませた。
ボソボソと、小さく聞こえる、弱々しい声。
祐輝は、怪訝そうに、眉を寄せた。
祐輝と小百合の耳に入ったのは、「ごめんなさい」、という、紗波の声、言葉。
小百合が、辛そうに下唇を噛むのが見える。
制服を引っ張られる感じがして、祐輝は詰襟の裾を見た。
グイと祐輝の制服の裾を、小百合の小さな手が、引っ張っていた。
小声で囁く小百合。
「…ながお、か…別の所、行こう…」
祐輝は、名残惜しく美術室を見ながら、小百合に連れられて行った。
フッと前を見ると、小百合の目に涙が溜まっているのが、見える。
__祐輝は、紗波のもう一つの心の中の闇を、覗いた気分になった。
胸の奥が、ツンと冷たく、締め付けられる感触。
その意味が、祐輝には解る。
小百合に連れられて、祐輝が行ったのは、生徒玄関の中庭前だった。
「…なぁ、昔、久岡に何かあったのか?」
祐輝が、隣に立って中庭の向こう側を見つめている小百合に、問いかけた。
雨は、祐輝と小百合の鼻先十センチの所で、中庭に降り注ぐ。