君色キャンバス
「…なんで知りたいの?」
心なしか、祐輝には小百合の声が濡れているように聞こえた。
中庭のあちこちに咲いている、瑠璃色のアジサイを見ながら、
「どうでも良いだろ」
と、返事をする。
「どうでも良くないし」
小百合が、そっぽを向いた状態で、言い返す。
「これは、軽い気持ちで教えちゃダメな事だと思うから」
祐輝は黙り込むと、辺りをキョロキョロと見渡しながら、次に言う言葉は正解かどうかを必死に考えた。
時折、雨が制服や顔について、冷たい。
「…久岡と友達だから」
言いたかった事とは違う言葉を紡ぎ出し、祐輝は後悔する。
言いたかったのは、この言葉じゃないのだ。
「…友達って理由で、教えられない」
二人の間に、少し気まずいような空気が、どこからか流れ込んだ。
祐輝はサラサラとした茶髪を乱すように頭を掻く。
小百合は中庭のどこかを見ている。
「…俺さ…」
祐輝が、小声で、小百合にも聞こえるように呟いた。
「…久岡が、好きだ」
小百合が、驚いたようにこっちを向いた。