君色キャンバス
「…え?紗波が好きなの?」
小百合が、慌てたような驚いたような、そんな声で祐輝に聞く。
ここまで驚かれるものか、と祐輝は少し疑問を持ったが、それは黙っていた。
「…好きだと思う。俺は」
「…本当に?」
どことなく小百合の方を見ると、黒い瞳が光っているのが見えた。
(…女子って恋バナ好きだっけ…)
祐輝はなんとなく瞳が光っている理由を悟りながら、あえてその事は言わなかった。
「…マジだけど?」
暫らく、沈黙が辺りを支配した。
話し声は消え、雨の音と葉の先から水が滴る音だけが聞こえる。
むわっとした暑苦しい湿気も、今日はそこまで気にならない。
祐輝はポケットから、一つのケースを取り出した。
そのケースは白く、中には棒状の粉が入っている。
その棒をいかにも自然な感じで口元に持っていき、もう片方の手でライターを持つ。
火をつけようとした瞬間、祐輝がハッとした様子で動きを止めた。
「…久岡って、煙草とか気にしねえタイプかな」
小百合が少し顔をしかめながら、
「…紗波は煙草の煙と匂い…苦手だよ」
と、答えた。
祐輝はそれを聞くと、口に加えた煙草をケースに戻し、近くのゴミ箱へと投げる。
ガコン、と音がして、煙草の入ったケースは、見事にゴミ箱の底に収まる。