君色キャンバス
「…本当に紗波が好き?」
「…しつけえな、マジだっての…」
祐輝は、顔が蒸し暑くなるのを感じた。
この暑さはきっと、梅雨の湿気の所為ばかりではないだろう。
「…もし本当に紗波が好きなら」
小百合が、祐輝の茶色の瞳を見定めるように見つめながら、ゆっくりと話す。
雨の匂いが中庭に漂う。
「…紗波を助けてあげて」
小百合が話し始めたのを、祐輝は大人しく聞いた。
「紗波はね、昔は感情があったんだ。…小五の三学期まで」
祐輝が、何年前なのかを、頭の中で計算する。
六年前の事だ。
かなり昔で、しかも紗波に感情があっと聞き、祐輝は少し戸惑ったが、小百合の話に再び耳を傾けた。
中庭の水溜りに、幾つもの波紋が広がっていき、やがて消えて行く。
「それで?」
「うん…小学五年生までは感情があった。私よりも感情 豊かだった。普段はニコニコ笑ってるし、絵を描くのも、外でドッヂボールをするのも大好きだったし」
「…え」
小百合が、ポツポツと言葉を紡いでいくのを、祐輝はただ受け入れるしかない。
紗波には感情があった。
「四年の時は、イジメられたのを助けてくれたし。…で、六年になった」
祐輝は口を挟むのをやめて、ひたすらに小百合の言葉を聞く。
昔を懸命に思い出すようにしながら、小学六年生の時、紗波に起こった出来事を、小百合は語った。