君色キャンバス
新緑色



さわさわさわさわ…と、中庭の草木が、爽やかな風で揺らされ、時に心地良い音楽を奏でる。



所々に咲く花の蜜を採ろうと、蜜蜂が花の中に顔をうずめた。



この辺りに、巣でもあるのだろうか。



五月の太陽はぽかぽかと暖かい。



他の生徒達が座るベンチを避け、誰一人として座って居ない、噴水前にあるベンチに座る。



暫らく、周りのその風景を見ていた。



笑顔で駄弁る生徒。



自らを誇る新緑色の花草達。



太陽に反射する、よくある形の噴水から噴き出す水は、キラキラと光る。



それを、暫らく眺めた。



そして、呟く。



「…何を描こう?」



キーンコーンカーンコーン。



校長の疲労の大部分を占めるであろう鐘の音が、校舎中に響き渡る。



「ヤバッ、時間だ」



生徒達が走って行き、中庭に残ったのは、紗波しか居なかった。



静寂に包まれた中庭を、よく見回す。



何の変哲もない平凡な中庭も、自分一人しか居ない時は、不思議な雰囲気が漂う。



紗波はもう一度、呟いた。



「…何を描こう?」



そう呟いた、瞬間だった。



「俺を描いてくれよ」



「…なんで」



後ろから、低く優しい、声がした。



紗波は驚きもせず、答える。



振り向きさえもしなかった。



< 12 / 274 >

この作品をシェア

pagetop