君色キャンバス
新緑色
さわさわさわさわ…と、中庭の草木が、爽やかな風で揺らされ、時に心地良い音楽を奏でる。
所々に咲く花の蜜を採ろうと、蜜蜂が花の中に顔をうずめた。
この辺りに、巣でもあるのだろうか。
五月の太陽はぽかぽかと暖かい。
他の生徒達が座るベンチを避け、誰一人として座って居ない、噴水前にあるベンチに座る。
暫らく、周りのその風景を見ていた。
笑顔で駄弁る生徒。
自らを誇る新緑色の花草達。
太陽に反射する、よくある形の噴水から噴き出す水は、キラキラと光る。
それを、暫らく眺めた。
そして、呟く。
「…何を描こう?」
キーンコーンカーンコーン。
校長の疲労の大部分を占めるであろう鐘の音が、校舎中に響き渡る。
「ヤバッ、時間だ」
生徒達が走って行き、中庭に残ったのは、紗波しか居なかった。
静寂に包まれた中庭を、よく見回す。
何の変哲もない平凡な中庭も、自分一人しか居ない時は、不思議な雰囲気が漂う。
紗波はもう一度、呟いた。
「…何を描こう?」
そう呟いた、瞬間だった。
「俺を描いてくれよ」
「…なんで」
後ろから、低く優しい、声がした。
紗波は驚きもせず、答える。
振り向きさえもしなかった。