君色キャンバス
「ん、何と無く」
軽い口調で返事をすると、その誰かが紗波の隣に座った。
「…なら…描かない」
横を向くまでもなく、紗波は噴水を描き出す。
シャッ、シャッと鉛筆が紙を弾く。
「ふーん…細けえな」
「…」
みるみるうちに噴水が書き上がっていく。
「美術部か何か?」
「…そう」
ノートと噴水を見比べながら描くが、隣の誰かを見たりはしない。
その誰かは、紗波の絵を見ているようだ。
「俺なら、こんなの無理」
その誰かは、はぁっ、と戯けてみせた。
しかし、紗波は笑う事もしない。
「…お前さぁ、笑ったりしないの?」
「…どうでもいい…授業は」
「それは俺の台詞だよ。お前、授業出ないの?」
「…意味ないから」
「…あっそ」
噴水が出来上がった。
繊細で滑らかな線で描かれたその噴水は、実物で見るよりも綺麗だが、輝きが、ない。
それを見て、誰かが言った。
「…なんで噴水がこんな暗えんだよ」
暗い。
それが、誰かの、紗波の絵を見た最初の感想だった。
「…知らない」
そう言いながら、紗波が初めてその誰かの方を向く。
暗いと言われ、少し、その誰かに興味を持ったからだ。
「おっ、初めて俺の方向いたな」
その誰かは、二カッ、と笑う。
紗波は眉を潜めた。
茶色い髪。
茶色い瞳。
楽し気な表情。
耳には、ピアス。
決して二枚目とは言えないが、その笑顔が眩しい。
下手をすると、紗波よりも白いかもしれない肌が輝いている。
それに、感情が、紗波とは違って、とても豊かだった。
「…別に描いてあげても良い」
ポツンと、紗波が、呟いた。