君色キャンバス
「周りから見たら、イジメって呼べるかどうか解らない。『天才』とか『凄い』とか言われてるだけだもの」
小百合が、机に顔を伏せたまま、言葉だけを祐輝に投げかける。
雨は降り続くばかりで、校庭は土色の海へと変化していた。
「でも、紗波にとってそれはナイフみたいな物だった。何度も何度も、美術室に閉じこもっては震えてた。…私は何もできずに居た」
小百合の声が、雨に当たる葉のように揺れていくのを聞く。
「そして…我慢できなくなったんだろうね…自分が天才、って言われる原因の一つ__絵を、塗り潰した」
もう一度、祐輝は中庭から見える、青いカーテンの引かれた美術室を見る。
私の所為だ、と、小百合はきっと思っているだろう。
それが、ありありと感じられた。
「…でも久岡って、『天才人形』って呼ばれてんだろ?あれは大丈夫なのか?」
想起してみれば、何週間か前__
紗波に、『天才人形』と聞いたような、そんな気がする。
小百合は、
「…大丈夫。…『天才人形』は、紗波を罵る言葉として…使ってるから。…褒められるのが…我慢できないみたい…」
と、複雑な顔を上げて祐輝を見てから、また机に突っ伏す。
「テストも受けずに、サボってばっかりでね…だから、一時期 紗波の成績は最悪だった…」
震える声と、きしむ椅子。
落ち着きなく椅子を前後に揺らしながら、祐輝は聞き続ける。
「ついに堪え切れなくなって…紗波は不登校になった」
「えっ?」
祐輝の疑問符に答える事もなく、小百合は先へ先へと、言葉を紡いでいく。