君色キャンバス
そのまま十分ほど、時間が過ぎた。
雨は少しばかり弱まっているようで、あれほど空き教室に響いた雨音が、今は気にならない。
「…流岡」
小百合が椅子から立ち上がって、祐輝に話を切り出した。
「…なんだよ」
祐輝が、窓の外を見ながら、小百合に返事をする。
「…本当に、紗波が好き…?」
祐輝が、ガラにもなく、また一度 顔を赤らめてから、不貞腐れた様に呟く。
「…マジだ…って言ってんだろ」
小百合が顔を上げた。
その黒い瞳は、祐輝の茶色い瞳を真剣に見つめてくる。
「…なら…本当に、紗波が好きなら。…紗波を助けて。…紗波に…感情を取り戻させて…」
小百合の瞳が光るのが見えたが、祐輝はあえてその事は言わず、立ち上がった。
「…解った」
二人は廊下に出ると、それぞれ反対側の道へと歩いて行った__