君色キャンバス
足音を不機嫌に響かせながら美術室の前まで来て、扉に手をかけてからハッと気づく。
小百合に『今日一日は美術室に行くな』と言われた事を思い出した。
危うくノックをしそうになった手を止め、考え込む。
(今 行ったとしても、久岡が傷つくだけだよな…どうしようか)
五分ほど、校庭側の壁に寄りかかって、美術室の中の音を聞こうとする。
しかし、何の音もせず、祐輝はため息をついて美術室の前から離れた。
(居ねえのか?でも、あのカス女は美術室に居るって言ってたけど…嘘か?)
カス女は、植原 光の事だ。
祐輝はイライラとしながら階段を降りていくと、靴箱へと向かった。
下靴を履いて、中庭に出る。
黄土色の地面のあちこちに水が溜まっていて、ベンチまで歩いて行くのに、かなりの遠回りをしなければならなかった。
見下ろすと、木のベンチは水に濡れて焦茶色になっている。
小さな水滴がベンチの上で煌めく。
周りの花や草の上でも、水滴は星のように光っていた。
ベンチに座る事を断念すると、祐輝は立ったまま、校舎に四角く切り取られた空を眺めた。
雲の間から見えるオレンジ色の空。
そして、美術室に目を移す。
青いカーテンが引かれ、外界から切り離された美術室は、一種の異世界のように感じられた。