君色キャンバス
あの中に紗波が居る。
祐輝は自分と紗波の距離が、どれだけあるのかを考えた。
物理的に考えれば、十何メートルほどの近さだが__心理的に考えたなら、その距離は想像できない程だろう。
「はぁー…」
青いカーテンから目を逸らし、祐輝はまた一つ、息をつく。
「どんくらい離れてんだろな」
独り言にしては大きく、濡れた草や花に語りかけているようにも見える。
もちろん、答える事はない。
祐輝は頭を掻き、中庭から出ようと、午前に小百合と話した扉の前に行った。
そして、その傍らに置かれたゴミ箱に気づき__近づいて中を覗く。
ゴミ箱の中には水が溜まっていて、底に白い箱が沈んでいる。
水の中に嫌々ながら手を突っ込み、ぐしょ濡れの煙草の箱を掴んだ。
気持ち悪そうに人差し指と親指でつまみながら、祐輝は周りを見回す。
雑草の入った袋に目を止め、小走りに近寄り、煙草の箱を奥へ押し込んだ。
「…よし」
祐輝は手をぶらつかせながら校舎に入ると、近くのトイレで手を洗い、また校舎内を徘徊する事にした。
いつもなら、さっさと帰ってヤンキーの仲間と夜まで騒ぐのだが、今日は学校に居残りたい気分だった。
今は、四時十五分。
祐輝はウロウロと校舎を歩き回った。
幸い、光と出くわす事はなかった。