君色キャンバス
小百合は一人、家への帰り道を歩いていた。
雲は相変わらず空に居座っているが、明日は晴れになるだろうという気配を漂わせている。
気温は、蒸し暑さは残るものの、それは気持ちの良い湿気だ。
小百合は鞄を振りつつ、祐輝に話した事は正しいのかどうかを考えていた。
(…流岡に話しても、良かったの?)
昼間は、つい『紗波を助けたい』衝動に駆られ、感情のままに祐輝に紗波の過去を話した。
しかし、時間が経つにつれ、本当にその判断は正しいのかどうか、不安になってきたのだ。
小百合は、祐輝の事を信じても良かったのかどうかで、悩んでいた。
(昼間は、感情的に話してしまった。流岡に話しても良かったのかな?本当に信用できるのか解らなかったのに)
ヒュウと、生暖かい風が頬をかすめ、小百合の癖っ毛が揺れる。
小百合の心の中には、祐輝に紗波の過去を話した事が正しかったのかに対する悩みこそあったが__なぜか、そこに不安はなかった。
(…でも。何となく。何となくだけど)
ゆっくりと穂を進めながら、流れていく風景を遠くに見る。
(…流岡の事を、信じても良いような気がした)